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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)156号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 審決取消事由1の主張について

(一) 当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明は、熱媒体を用いた第一冷却用熱交換器の一次側において、相関弁通過後の完全殺菌液と右熱媒体とで熱交換を行い、右熱媒体には蒸気を吹込んで加熱し、これをそのまま第二加熱用熱交換器の二次側に導入し、原液の最終の加熱殺菌の用に供する構成のものであることが認められる。

そして前掲甲第二号証によると、右の構成に伴う作用効果について、本願明細書の発明の詳細な説明欄には、「……完全殺菌液を冷却する第一冷却用熱交換器の一次側と第二加熱用熱交換器の二次側とを閉回路で結んだので第二加熱用熱交換器の二次側に流す高温の水には同第二加熱用熱交換器の一次側の原液の加熱に利用して一旦低温水となつた水を第一冷却用熱交換器の一次側に流してその二次側を流れる完全殺菌液の熱を回収して高温化せしめたものに附加的に蒸気を吹込んで再生させたものをあてれば足りるのでこのラインは熱回収率が極めて高く経済的である等の優れた諸効果を有するものである。」との記載(四欄三行ないし一三行)が認められる。

(二) これに対し、成立に争いのない甲第三号証によると、引用例一に記載のものは、牛乳を完全殺菌する最終加熱部((C)―H2)の前段階である第二段熱回収部((C)―R2)において、流れ転向弁(F)通過後の高温度の殺菌乳と最終加熱部((C)―H2)に送る牛乳とで熱交換を行う構成からなるものであることが認められる。

そして前掲甲第三号証によると、引用例一には、右の構成に伴う作用効果として、「牛乳はポンプ作用でプレート式熱交換器の第二段熱回収部(C)―R2に送られ、ここで冷却のためもどつてきた高温度の殺菌乳により六五~八〇%の熱回収率で牛乳の温度は上昇する。」との記載(二六二頁二二行ないし二五行)が認められる。

(三) 以上認定の事実関係からすれば、本願発明では、完全殺菌液の熱回収手段は、最高の温度状態にある第一段階で、加熱媒体を介して最終の加熱殺菌の段階にある原液との間で間接的に行われるのに対し、引用例一のものでは、完全殺菌乳(本願発明の完全殺菌液に相当)の熱回収手段が、第一段階では加熱媒体を介することなく最終の加熱殺菌の前段階にある牛乳との間で直接的に行われるものである点で相違することが認められる。

(四) しかしながら、(1)本願発明若しくは引用例一のもののような液体の加熱、冷却装置において、熱媒体を用いる間接的熱交換方式とこれを用いない直接的熱交換方式との二方式が従来存することは、当事者間に争いがない。(2)そして、本願発明の前記構成に伴う作用効果については、明細書において前認定のとおり、たゞ単に熱回収率が極めて高く経済的であると記載されているにとどまり、しかも、一般に、前述の直接的熱交換の方が間接的熱交換よりも熱効率が良好であることは当事者間に争いがない。これらの点を併せ考えると、本願発明の右作用効果は、熱回収率について具体的数値をもつて記載された前記引用例一の効果を凌駕する格別のものとは解し難く、他に本願発明の奏する効果の顕著性を裏付ける資料もない。

(五) そうしてみると、完全殺菌液の熱を原液の最終加熱殺菌用熱媒体の熱源として利用する本願発明の前記の構成は、引用例一に記載されたところから当業者において容易に想到できたものと解するのが相当である。

(六) したがつて、相違点<1>についての審決の判断は、措辞が妥当でない部分があるけれども、誤りとはいえず、原告の審決取消事由1の主張は採用できない。

2 審決取消事由2の主張について

(一) 前記本願発明の要旨によれば、本願発明は、完全殺菌液の圧力を少なくとも不完全殺菌液、低温度水及び冷却水のいずれの圧力よりも高くすることを要件とするものであり、また、このように圧力を高くするについては、完全殺菌液を製品工程部に送る前段階にある圧力制御弁を用いることを要件とするものであることが認められる。

そして前掲甲第二号証によると、このような構成に基づく効果について、本願明細書の詳細な説明の項には、「熱交換プレートに破損孔等が生じることがあると雖も完全殺菌液の流路内に不完全殺菌液、低温度水または冷却水が流入し同完全殺菌液を汚染する如き慮れが無く、」との記載(三欄三四行ないし四欄三行)が認められる。

(二) ところで、前掲甲第三号証及び成立に争いのない甲第四号証によると、原告が主張するとおり、引用例一には、熱交換器中の牛乳にかかる背圧を加熱蒸気の圧力よりも高くすることが、また引用例二には、殺菌乳にかかる圧力を原乳(未殺菌乳)のそれよりいくぶん高くすることがそれぞれ記載されてはいるが、完全殺菌液の圧力を低温度水及び冷却水の圧力よりも高くすることについては、右いずれの引用例にも直接の記載は見当らない。

(三) しかしながら、前掲甲第四号証によると、引用例二には、前記の殺菌乳にかかる圧力を原乳のそれよりいくぶん高くする根拠について、「これは、二種の牛乳を隔離している金属あるいはガスケツトの故障が生じた場合に、未加工の牛乳が殺菌済の牛乳を汚染することがないためである。」(訳文一頁一五行ないし二頁一行)との記載のあることが認められる。

(四) そうしてみると、殺菌済牛乳を汚染することのないようこの殺菌済牛乳の圧力を、これと熱交換すべき対象たる未殺菌牛乳の圧力よりも高くするとの技術思想を基に、完全殺菌液の汚染防止のために、この完全殺菌液の圧力を、これと熱交換を行うべき対象である不完全殺菌液をはじめ、低温度水及び冷却水の各圧力よりも高くすることは、容易に想到できるものであると認めるべきであり、この点について格別の困難性を窺うべき事情は見当らない。

(五) 次に本願発明の要旨によれば、完全殺菌液の圧力を高める手段として圧力制御弁を用いるとされているにとどまり、本願の明細書及び図面を検討しても右圧力制御弁の具体的構成や特段の効果についての記載は見当らない。そして、液体の流通機構において、その圧力を調整制御するのに圧力制御弁を用いること自体は特段のものでないことは明らかである(このこと自体は原告も明らかに争わないところである。)から、本願発明において、完全殺菌液の圧力を高める手段として圧力制御弁を用いた点に創意があつたものとは到底解されない。

(六) そうすると、原告の審決取消事由2の主張も採用できない。

3 審決取消事由3の主張について

(一) 本願発明の要旨によれば、完全殺菌液を冷却する第一冷却用熱交換器の一次側と第二加熱用熱交換器の二次側(前記1の(一)の熱媒体が用いられる部分)とを閉回路で結ぶものであることが認められる。

(二) これに対し、引用例一のものは、前記1の(二)に記載したところから明らかなとおり、このような構成のものではない。

(三) しかしながら、前掲甲第四号証によれば、引用例二には牛乳の殺菌加熱部における間接的熱交換手段として、蒸気を吹込んで再生させる熱水循環システムが図示されており(三三五頁)、この図によれば、最終加熱部の熱水即ち熱媒体は、閉回路を構成していると認められる(別紙(三)図面参照)。そうすると、本願発明において、前記1のとおり熱媒体を用いた場合に、その熱効率等を考慮してこれを閉回路で結んだ点に格別の創意があつたとみることはできない。

(四) したがつて、原告の審決取消事由3の主張も採用できない。

三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ポンプ本体によつてバランスタンクより送出される原液を、予熱用熱交換器及び第一加熱用熱交換器の一次側を経てホルデイングタンクに導入した後、この原液を高温の蒸気、加圧温水等を二次側に流した第二加熱用熱交換器の一次側にそれぞれ導入すると共に、第二加熱用熱交換器の一次側出口に、同口を通過した直後の原液の温度を検知して当該原液を完全殺菌液管路側又は不完全殺菌液管路側に自動的に切換えて流す相関弁を連結し、この相関弁により完全殺菌液管路に送出された完全殺菌液を冷却する第一冷却用熱交換器の一次側と第二加熱用熱交換器の二次側とを閉回路に結び、完全殺菌液は、低温度水を一次側に流した第一冷却用熱交換器及び上記の予熱用熱交換器の各二次側並びに第二冷却用熱交換器の二次側を流れ、圧力制御弁を経て製品充填工程部等に流れるようにし、同じく不完全殺菌液管路に送出された不完全殺菌液は、一次側に冷却水等を流した第三冷却用熱交換器の二次側を通過してバランスタンクに復流して再び殺菌工程を経るようにし、上記の圧力制御弁により完全殺菌液の圧力を少なくとも不完全殺菌液、低温度水及び冷却水の圧力より高くすることを特徴とする液体の殺菌・滅菌処理プラント。

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